「ナスをプランターで育てるのは難しい」と感じていませんか。家庭菜園の定番野菜として人気のナスですが、いざ挑戦してみると「なぜかうまくいかない」という声が後を絶ちません。
実は、プランターという限られた環境でナスを育てるには、地植えとは少し違ったコツが必要です。
この記事では、なぜナスをプランターで育てるのが難しいのか、その原因を一つひとつ丁寧に探っていきます。
花が落ちて実がならないのはなぜか、ナスの実が大きくならない時の原因、そして収穫できても実が小さいのはなぜかといった、多くの方が直面する具体的なお悩みについて、その背景にある理由を分かりやすく解説します。
また、失敗を招く水やりと日照不足の問題や、肥料の与え方を間違えていないかという基本的な視点からも、生育不良のメカニズムを明らかにしていきます。
さらに、この記事の後半では、「ナスをプランターで育てるのが難しい」という状況を克服するための具体的な栽培のコツを徹底的に紹介します。
最適なプランターの深さと大きさの選び方から、成功を左右するプランターの土の量、ナスを支える基本の支柱立て方、さらにはナス栽培で使うべき肥料のおすすめや、
収穫量を格段に増やすための摘心のコツ、そして専門家も実践する一番果の若取りで株の成長を促す方法まで、初心者の方がつまずきやすいポイントを網羅しました。
この記事を最後まで読めば、きっと「コツを掴めばナスをプランターで育てるのは難しくない」と実感し、次のシーズンには美味しいナスをたくさん収穫できるようになるはずです。
この記事で分かること
- ナスがプランターで育ちにくい根本的な原因とその科学的背景
- 失敗しないためのプランターや土、苗の選び方という基本の「き」
- 収穫量を最大化するための剪定や施肥など具体的な手入れ方法
- ナスの生育過程でよくあるトラブルとその科学的根拠に基づいた対策
なぜ?ナスをプランターで育てるのが難しい原因

- 花が落ちて実がならないのはなぜ?
- ナスの実が大きくならない時の原因
- 収穫できても実が小さいのはなぜ?
- 失敗を招く水やりと日照不足
- 肥料の与え方を間違えていないか
花が落ちて実がならないのはなぜ?

ナスを育てていて、せっかく咲いた紫色の美しい花が実を結ばずにポロポロと落ちてしまう現象は、栽培者が最初に直面する「壁」とも言えるでしょう。
これは「落花」と呼ばれ、ナスからのSOSサインです。この現象には、複合的な理由が隠されています。
最も一般的な原因は、前述の通り水分や肥料のバランスが極端に崩れていることです。
ナスは水を大量に消費する野菜ですが、プランターでは土の量が限られているため、少し水やりを怠るだけで深刻な水分不足に陥ります。
植物は生命の危機を感じると、子孫(実)を残すよりもまず自身の生命維持を優先するため、エネルギー消費の大きい花を自ら切り離してしまうのです。逆に、受け皿に常に水が溜まっているような過湿状態も危険です。
根が呼吸できずに傷み始め、栄養を吸収できなくなる結果、同様に落花を引き起こします。
また、肥料のアンバランスも深刻な問題です。特に、窒素(チッソ)成分が多すぎる肥料を与え続けると、葉や茎ばかりが異常に成長する「つるぼけ(栄養過多)」という状態に陥ります。
こうなると、植物の関心が栄養成長(体の成長)に偏ってしまい、生殖成長(花や実)に必要なエネルギーが回らなくなってしまうのです。
実を付けるためには、花や実の成長をサポートするリン酸や、根の張りを助けるカリウムといった栄養素がバランス良く含まれた肥料を選ぶことが不可欠です。
生育適温から外れていませんか?
ナスの生育に適した温度は昼間22〜30℃、夜間15〜20℃とされています。
この範囲を大きく外れると、株は大きなストレスを感じます。例えば、春先の植え付け直後に夜間温度が15℃を下回る日が続くと、株の成長が停滞し、正常な花粉が作られにくくなります。
また、気象庁のデータでも示されているように、近年の夏は35℃を超える猛暑日が珍しくありません。このような高温下では、人間が夏バテするようにナスも正常な受粉活動ができなくなり、結果として実を付けられずに花を落としてしまうのです。
これらの理由から、日当たり、水、肥料、そして温度という基本的な栽培環境のどれか一つでも欠けてしまうと、ナスは敏感に反応し、落花という形でサインを送ってきます。まずは栽培環境全体を丁寧に見直すことが、問題解決の第一歩となります。
ナスの実が大きくならない時の原因

花が無事に咲き、小さな緑色の実がついたのに、そこから一向に大きくならない…。この「成長停止」とも言える状態も、プランター栽培で非常によく見られる悩みです。
この原因の核心は、植物の成長エンジンである「根」が、その能力を最大限に発揮できていないことにあります。
プランター栽培において、その最大の原因は容器の物理的な制約、すなわちプランターのサイズが小さいことです。
ナスは本来、地中1メートル以上にまで根を伸ばす能力を持つ植物です。しかし、浅く小さなプランターでは、根が行き場を失い、鉢の底でとぐろを巻く「根詰まり(根鉢)」という状態に陥ります。
こうなると、新しい根を伸ばすスペースがなくなり、水分や養分の吸収能力が著しく低下します。根からのエネルギー供給が滞れば、当然ながら地上部の実を大きくすることはできません。
根詰まりは、植物にとって満員電車に閉じ込められているようなものです。身動きが取れず、新しい栄養を取り込むこともできません。この状態では、どんなに高級なサプリメント(肥料)を与えても、効果は限定的です。
また、慢性的な水切れや肥料切れも、実の肥大を妨げる直接的な原因となります。
ナスの果実はその約90%が水分で構成されており、成長期には大量の水を必要とします。特に暑い夏の日中に一度でも葉がぐったりと萎れてしまうと、たとえ夕方に水やりをして回復したように見えても、
細胞レベルではダメージが蓄積し、成長にブレーキがかかってしまいます。同様に、実が次々と付き始める時期は、株が最も栄養を欲するタイミングです。
この時期に追肥を怠ると、深刻な栄養不足に陥り、実を大きくするためのエネルギーが枯渇してしまうのです。
さらに、枝や葉の茂りすぎも見過ごせません。適切な剪定(整枝)を怠ると、限られた栄養が実に集中せず、不要な葉や茎に分散してしまいます。
光合成で作られた貴重なエネルギーを効率よく実に届けるためにも、風通しを良くし、実に光が当たるように整えてあげることが、大きな実を育てるための重要なテクニックとなります。
収穫できても実が小さいのはなぜ?

収穫の喜びはあるものの、スーパーに並んでいるような艶やかで大きなサイズにはならず、小ぶりな実ばかり…というケースもあります。これは、病気ではありませんが、株全体のエネルギーが不足している、いわゆる「スタミナ不足」の状態が原因です。
このスタミナ不足を引き起こす最大の要因として、特に初心が見落としがちなのが、「一番果(いちばんか)」の管理です。
植物が最初につける実は、株にとって特別な存在です。まだ株自体が若く、人間で言えば成長期の少年少女のような段階で、全力で実を育てようとしてしまいます。
この一番果を大きく育ててしまうと、株は持てるエネルギーのほとんどを注ぎ込んでしまい、完全に体力を消耗してしまいます。
これを「株疲れ」と呼びます。
一度株疲れを起こしてしまうと、その後の成長は著しく鈍化し、二番目、三番目と続く実を大きく育てるための余力がなくなってしまうのです。
結果として、シーズンを通して小さな実しか収穫できないという事態に陥ります。株の将来を考え、長期的にたくさんの大きな実を収穫するためには、
一番果は長さ5〜6cm程度の非常に小さいうちに収穫してしまう「若取り」という技術が極めて重要になります。この非情とも思える一手間が、最終的な収穫量を大きく左右するのです。
更新剪定で株をリフレッシュさせよう
7月下旬から8月上旬にかけて収穫のピークが過ぎ、株全体に疲れが見え始めたら、「更新剪定」というリフレッシュ作業が非常に効果的です。
これは、各枝を思い切って半分から3分の1程度の長さまで切り戻し、同時に株元に追肥を行う作業です。これにより、株は一時的に実を作る負担から解放され、新しい枝を伸ばすことに集中できます。
うまくいくと、9月頃から再び元気な枝葉が茂り、みずみずしくて美味しい「秋ナス」の収穫が楽しめます。
もちろん、前述の通り、収穫が始まってからの継続的な追肥不足も、スタミナ切れの大きな原因となります。
ナスは「肥料食い」と揶揄されるほど、生育期間を通して多くの栄養を必要とする野菜です。収穫という形で株から栄養を取り出しているわけですから、その分を追肥で補給し続けるという意識を持つことが、大きな実を育て続けるための絶対条件です。
失敗を招く水やりと日照不足

ナスのプランター栽培が地植えに比べて難しいと感じられる最も根本的な要因は、水と光の管理がシビアである点に尽きます。プランターという人工的な環境は、自然の畑と比べて土の量が絶対的に少なく、外部環境の変化をダイレクトに受けてしまうためです。
ナスはインド原産の野菜であり、そのルーツからも分かるように高温多湿を好む一方で、乾燥には極端に弱い性質を持っています。
プランターの土は、四方から空気に触れているため、特に夏の炎天下では驚くほどの速さで水分が蒸発します。
「土の表面が乾いたら水を与える」という一般的なセオリーは、ナスには通用しないと考えた方が良いでしょう。
表面が乾いた時点では、すでに根の周りは乾燥し始めている可能性があります。基本は「毎日」、プランターの底から水が勢いよく流れ出るまでたっぷりと与えるのがセオリーです。
猛暑日が続く真夏には、朝の涼しい時間帯と、気温が下がり始める夕方の2回水やりが必要になることも珍しくありません。
ただし、常に受け皿に水が溜まっている状態は、根が呼吸できなくなる「根腐れ」の元凶です。水はたっぷりと与え、余分な水はしっかりと排出させる、「メリハリのある水やり」が理想です。
プラスチック製のプランターは保水性が高い一方、テラコッタ(素焼き)の鉢は乾きやすいなど、容器の素材によっても水の管理方法は変わってきます。
日照不足は全ての成長を阻害する
ナスは光合成によって成長のエネルギーを作り出す「陽生植物」の代表格です。健全な生育のためには、最低でも1日に6時間以上、できれば8時間以上の直射日光が不可欠とされています。
マンションのベランダなどでは、時間帯によって隣の建物の影に入ったり、午前中しか日が当たらなかったりすることが多々あります。日照時間が絶対的に不足すると、光合成が十分に行えず、株はエネルギー不足に陥ります。
その結果、茎は細くひょろひょろと伸び(徒長)、葉の色は薄くなり、当然ながら花付きや実付きは著しく悪化します。プランターの置き場所を時間帯によって移動させるなど、可能な限り長く日光に当てる工夫が、成功への絶対条件となります。
肥料の与え方を間違えていないか

「水も日光も十分に管理しているはずなのに、なぜかナスの元気がない」という場合、その原因は目に見えない土の中、つまり肥料の与え方に潜んでいる可能性が高いです。
ナスは肥料を大量に消費しますが、やみくもに与えれば良いというわけではなく、その種類、バランス、タイミングが非常に重要になります。
植物の成長に不可欠な「肥料の三要素」の役割を正しく理解することが第一歩です。
要素(記号) | 通称 | 主な役割 | 過剰・欠乏の影響 |
---|---|---|---|
窒素(N) | 葉肥え(はごえ) | 葉や茎など、植物の体を大きくする | 過剰だと実が付かない「つるぼけ」に。欠乏すると葉が黄色くなる。 |
リン酸(P) | 実肥え(みごえ) | 花を咲かせ、実を付け、種子を作る働きを助ける | 欠乏すると花付きや実付きが悪くなる。 |
カリウム(K) | 根肥え(ねごえ) | 根の発育を促し、病気や環境ストレスへの抵抗力を高める | 欠乏すると根張りが悪くなり、葉の縁が枯れることがある。 |
初心者が最も陥りやすい失敗は、早く大きくしたいという思いから、窒素成分の多い肥料を与えすぎてしまうことです。
これにより引き起こされる「つるぼけ」は、葉や茎ばかりが異常に茂り、生殖(花や実)へのエネルギーが回らなくなる現象で、一度この状態になると回復させるのは容易ではありません。
特に実をたくさん収穫したい生育中期以降は、リン酸成分が多く配合された肥料を選ぶことが極めて重要です。
また、肥料を与えるタイミングも生育を大きく左右します。植え付け時に土に混ぜ込む「元肥(もとごえ)」は、いわばスタートダッシュのための栄養です。
しかし、ナスは長期間にわたって成長と収穫を続けるため、途中で必ず栄養が不足します。そこで不可欠なのが、成長に合わせて追加する「追肥(ついひ)」です。
追肥は、一番初めの実が確認できた頃をスタートの合図とし、その後は2週間に1回程度のペースで、忘れずに定期的に与え続けることが、シーズンを通して収穫し続けるための秘訣です。肥料が切れると、株は途端に元気を失い、実の付きが悪くなることを覚えておきましょう。
「ナスをプランターで育てるのが難しい」を克服する栽培のコツ

- 最適なプランターの深さと大きさ
- 成功を左右するプランターの土の量
- ナスを支える基本の支柱立て方
- ナス栽培で使うべき肥料のおすすめ
- 収穫量を増やすための摘心のコツ
- 一番果の若取りで株の成長を促す
最適なプランターの深さと大きさ

ナスのプランター栽培を成功へと導く、最も重要で、そして最初のステップが適切なサイズの「住まい」、すなわちプランターを選ぶことです。この選択を間違えてしまうと、後からどれだけ丁寧な手入れを施しても、ナスのポテンシャルを最大限に引き出すことはできません。
結論として、ナス1株を健康に育てるためには、最低でも直径30cm(一般的に10号鉢と呼ばれるサイズ)、そして深さも同様に30cm以上のプランターが必須です。
これは、ナスが地中深くまで、そして水平方向にも広く根を張り巡らせることで、体を支え、水分や養分を効率よく吸収するという生態的特性に基づいています。この最低限のスペースを確保してあげることで、根は窮屈な思いをすることなく、のびのびと成長することができます。
もし設置スペースに余裕があるなら、直径35cm以上の12号鉢を選ぶことを強く推奨します。土の容量が格段に増えるため、土壌の温度変化が緩やかになり、水切れや肥料切れのリスクも大幅に軽減できます。これは、特に管理に時間をかけられない方にとって大きなメリットになりますよ。
プランターにある程度の深さが必要な理由は、根の生育スペース確保だけではありません。
もう一つ、支柱を安定して固定するためという非常に重要な役割があります。
ナスは成長すると1メートル近い高さになり、たくさんの実がぶら下がるとかなりの重量になります。
浅いプランターでは、支柱を深く差し込むことができず、強風や実の重みで支柱ごと倒れてしまう危険性があります。深さが30cm以上あれば、支柱をしっかりと固定でき、安定した栽培環境を維持することが可能になります。
種類 | 号数(直径) | 深さ | 土の容量(目安) | 推奨株数とポイント |
---|---|---|---|---|
丸型プランター(最低ライン) | 10号(約30cm) | 約30cm | 15L~ | 1株。これが栽培可能な最低限のサイズ。 |
丸型プランター(推奨サイズ) | 12号(約36cm) | 約35cm | 25L~ | 1株。生育が安定し、初心者でも管理しやすい。 |
長方形プランター | 幅60cm~ | 約30cm | 30L~ | 2株まで。株と株の間は30cm以上離すこと。 |
成功を左右するプランターの土の量

最適なプランターを選んだら、次に栽培の成否を大きく左右するのが、その中に入れる「土」の質と量です。土は、ナスにとって水や栄養を供給し、体を支えるためのベッドそのものです。この土壌環境をいかに快適に整えるかが、腕の見せ所となります。
量の観点から見ると、前述の通り10号サイズのプランターであれば、1株あたり最低でも15リットル、理想を言えば20リットル以上の土を確保することが推奨されます。
土の量が多ければ多いほど、物理的なメリットが生まれます。
まず、保水力(水を蓄える力)と保肥力(肥料成分を保持する力)が格段に向上します。
これにより、頻繁な水やりや追肥の手間が軽減されるだけでなく、ナスが必要な時に必要な分だけ水分や栄養を吸収できる、安定した環境が生まれます。これは、特に留守にしがちな家庭にとって大きな利点です。
実際にプランターに土を入れる際には、いくつかの重要なポイントがあります。
ウォータースペースという「余白」を作る
プランターの縁ギリギリまで土をパンパンに詰めてしまうのはNGです。縁から2〜3cmほど意図的に低く土を入れることで、「ウォータースペース」と呼ばれる水溜りのための空間を作ります。
この「余白」があることで、水やりをした際に水が一気に流れ出さず、ゆっくりと土全体に浸透していくようになります。
鉢底石で呼吸と排水を助ける
土を入れる前に、プランターの底が見えなくなる程度に「鉢底石」を敷き詰める一手間を惜しまないでください。
この軽石の層が、余分な水がスムーズに底穴から排出されるのを助け、根が呼吸するための空気の通り道を確保します。
これにより、プランター栽培で最も怖い失敗の一つである「根腐れ」を効果的に防ぐことができます。
初心者こそ高品質な市販の培養土を
土作りは奥が深く、初心者の方が赤玉土や腐葉土などを自分でブレンドするのは非常に困難です。そこでおすすめなのが、園芸店やホームセンターで販売されている市販の「野菜用培養土」です。
ハイポネックスのような信頼できるメーカーの製品は、
ナス栽培に最適な通気性、排水性、保水性が計算されており、元肥もバランス良く配合されているため、開封してすぐに最高の状態で栽培をスタートできます。
ナスを支える基本の支柱立て方

ナスは、その柔らかい茎とは裏腹に、成長すると草丈が80cmから1m以上にも達し、最盛期には何個もの実を同時にぶら下げます。この重みを支えきれず、枝が折れたり株全体が倒れたりするのを防ぐために、支柱を立てて体を支えてあげる作業は、栽培における必須の工程です。
支柱を立てるのに最も適したタイミングは、議論の余地なく苗を植え付けると同時です。
栽培が進んでから支柱を立てようとすると、すでに地中に広がっているデリケートな根を突き刺して傷つけてしまうリスクが非常に高くなります。根にダメージを与えると、株全体の生育に深刻な悪影響を及ぼすため、必ず植え付け時にセットで行うようにしましょう。
家庭菜園のプランター栽培で最もポピュラーで、かつ効率的な支柱の立て方が「3本仕立て」です。
これは、植物のエネルギーを効率的に実に集中させるための剪定方法と連動しています。一番太い中心の枝である「主枝」と、そのすぐ下から伸びる元気の良い「脇芽」を2本選び、この合計3本をメインの枝として育てていきます。そして、それぞれの枝に沿わせるように3本の支柱を配置し、成長をサポートします。
初心者でも簡単な「3本仕立て」の手順
- 準備:長さが1.5m程度の園芸用支柱を3本用意します。あまり細すぎると実の重みに耐えられないため、ある程度の太さがあるものを選びましょう。
- 設置:植え付けた苗から10cmほど離れた位置に、3本の支柱をそれぞれ、やや外側に傾けるように「ハ」の字を描くイメージで、プランターの底に当たるまで深く、ぐらつかないようにしっかりと差し込みます。
- 誘引:植物が成長し、枝が伸びてきたら、麻ひもやビニールタイなどで支柱に結びつけていきます。この作業を「誘引」と呼びます。茎に食い込まないよう、茎と支柱を一緒に8の字を描くように緩めに結ぶのが、植物に優しい結び方のコツです。
このように適切に支柱を立てて誘引することで、物理的に株を支えるだけでなく、枝葉が重なり合うのを防ぎ、株全体の風通しと日当たりを劇的に改善します。これは、うどんこ病などのカビ系の病気や、アブラムシなどの害虫の発生を抑制する上でも非常に重要な効果をもたらします。
ナス栽培で使うべき肥料のおすすめ
ナスをシーズンを通して元気に育て、たくさんの実を収穫し続けるためには、人間が毎日食事をするのと同じように、計画的かつ継続的な栄養補給、すなわち施肥が絶対に欠かせません。肥料は、与えるタイミングと目的によって、大きく2つの種類に分類して考えます。
元肥(もとごえ):栽培の基礎体力をつくる
元肥とは、苗を植え付ける前に、あらかじめ土に混ぜ込んでおく「初期栄養」のことです。
これは、植え付けられた苗が新しい環境に根を張り、安定して成長を始めるための大切な基礎体力となります。
元肥には、効果がじっくりと長期間にわたって続く「緩効性化成肥料」が最適です。多くの市販培養土には、この元肥が最初からバランス良く配合されていますが、
もし自分で土をブレンドする場合や、元肥が含まれていない土を使用する際は、パッケージに記載された規定量を土とよく混ぜ込んでから植え付けるようにしてください。
追肥(ついひ):成長と収穫を支える追加栄養
追肥は、生育の過程で消費され、不足してくる栄養素を補うための「追加栄養」です。
ナス栽培において、追肥を始めるべき絶好のタイミングは、一番果が指先ほどの大きさになったのを確認した頃です。
これをスタートの合図として、その後は収穫が終わるまでの期間、コンスタントに2週間に1回程度のペースで与え続けます。追肥には、目的やライフスタイルに合わせていくつかの選択肢があります。
即効性を求めるなら水で薄めて与える「液体肥料」、手間をかけずに安定した効果を得たいなら株元にまく「固形の化成肥料」がおすすめです。
液体肥料と化成肥料の賢い使い分け
液体肥料は、水に規定の倍率で希釈して水やり代わりに与えるタイプです。根から直接吸収されるため即効性が非常に高く、
「最近、葉の色が薄いな」「成長が止まっている気がする」といった緊急の栄養補給に適しています。
一方、化成肥料は、粒状の肥料をパラパラと土の上にまくタイプです。水やりのたびに少しずつ成分が溶け出し、長期間にわたって安定した効果が持続します。
定期的な管理を手軽に行いたい方に最適な選択肢と言えるでしょう。農林水産省も化学肥料の適正な利用を推奨しており、用法・用量を守ることが環境への配慮にも繋がります。
追肥を行う際の重要な注意点は、肥料が植物の茎や根に直接触れないようにすることです。濃度が高い肥料が直接触れると「肥料焼け」を起こし、根を傷めてしまう原因になります。必ず、株元から少し離れたプランターの縁に沿って施すように心がけましょう。
収穫量を増やすための摘心のコツ
ナスの収穫量を飛躍的に向上させるために、専門家が必ず実践する重要な技術が「摘心(てきしん)」または「整枝(せいし)」と呼ばれる剪定作業です。これは、植物の成長点を意図的に摘み取ることで、栄養の流れをコントロールし、収穫に最適化された樹形を作り上げるための高等テクニックです。
なぜ摘心が必要不可欠なのでしょうか。それは、限られたエネルギーを、無駄なく効率よく実に集中させるためです。
ナスは生命力が旺盛なため、放置しておくと、主枝だけでなく、葉の付け根から次から次へと「脇芽」が伸びてきます。
この全ての脇芽を育ててしまうと、株は全体的に枝葉が鬱蒼と茂った、いわゆる「ジャングル状態」になります。こうなると、光合成で作られた貴重な栄養が、収穫したい実に届く前に、無数の葉や茎に分散して消費されてしまうのです。
その結果、花付きが悪くなったり、一つ一つの実が大きくならなかったりといった問題が発生します。
摘心の基本的な方法は、慣れてしまえば非常にシンプルです。
3本仕立てで育てている主枝や側枝から伸びてきた脇芽に花が咲いたら、その花の上にある葉を1枚か2枚だけ残し、そのすぐ先の茎の先端部分を清潔なハサミでカットします。
摘心がもたらす3つの大きなメリット
- 品質向上:実に送られる栄養が凝縮されるため、大きく、色艶が良く、味の濃い高品質なナスが収穫できます。
- 病害虫予防:不要な枝葉がなくなることで、株全体の風通しと日当たりが劇的に改善されます。これにより、湿気を好むカビ系の病気や、隠れ場所の多い害虫の発生を効果的に抑制できます。
- 収量増加:カットした部分の少し下から、さらに新しい元気な脇芽が伸びてきます。これにより、結果的に収穫できる枝の総数が増え、長期にわたって安定した収穫が可能になります。
この「花が咲いたら葉を1〜2枚残してカット」という作業を、シーズンを通してリズミカルに繰り返していくことが、プランターという限られたスペースで収穫量を最大化するための、最も効果的な秘訣と言えるでしょう。少しの手間をかけることで、見違えるような成果が得られます。
一番果の若取りで株の成長を促す
ナスのプランター栽培において、収穫シーズンの成功を左右すると言っても過言ではない、非常に重要ながらも見落とされがちなコツがあります。それが、一番最初に付いた記念すべき実、すなわち「一番果」を、あえて大きくせずに早めに収穫するという「若取り(わかどり)」の技術です。
なぜ、最初の大切な実を犠牲にする必要があるのでしょうか。それは、植物全体の将来を見据えた、戦略的なエネルギーマネジメントのためです。
苗を植え付けてからの初期段階では、株はまだ人間でいうところの成長期にあります。
この時期の最優先事項は、水分や養分を吸収するための「根」を広く深く張り、光合成を行うための「葉」を十分に茂らせることで、丈夫な体を作ることです。
しかし、この大切な時期に大きな実を付けてしまうと、株はまだ未熟な体にもかかわらず、子孫(実)を残すために持てるエネルギーのほとんどをその実に注ぎ込んでしまいます。
この無理がたたって体力を完全に消耗してしまった状態が、前述した「株疲れ」です。一度深刻な株疲れに陥ると、その後の成長は停滞し、二番目以降に付く実が大きくならなかったり、病気への抵抗力が弱まったりと、シーズン全体のパフォーマンスに深刻な悪影響を及ぼします。
「もったいない」という気持ちは痛いほど分かります。しかし、これは未来への賢明な投資なのです。
一番果を早めに摘み取ることで、株はその分のエネルギーを自身の体作り(根や葉の成長)に再投資できます。その結果、より頑丈で持続力のある株に育ち、最終的にはより多くの、そしてより大きな実を収穫することができるのです。
若取りを行うべき収穫の目安は、品種にもよりますが、一般的に実の長さが5〜7cm程度の、まだ小さいうちです。このタイミングで、清潔なハサミを使ってヘタの少し上で切り取り、収穫します。この非情にも思える一手間こそが、あなたのナス栽培を成功へと導く、大きな分かれ道となるでしょう。
コツを掴めばナスをプランターで育てるのは難しくない
ナス栽培成功のポイントまとめ
記事のまとめ
- プランターは1株に10号(直径30cm)以上、深さ30cm以上のものを選ぶ
- 可能であれば12号鉢を選ぶと管理がさらに楽になる
- 土の量は1株あたり最低でも15リットル以上を確保する
- 苗は病気に強く生育旺盛な接ぎ木苗が初心者には断然おすすめ
- 置き場所は1日に6時間以上、直射日光が当たる場所を最優先で確保する
- 水やりは土が乾ききる前に、鉢底から水が出るまで毎日たっぷりと行う
- 真夏の猛暑日には、朝と夕方の2回の水やりも検討する
- 肥料は元肥と追肥を計画的に使い分け、特に追肥を切らさない
- 追肥は一番果が確認できたらスタートし、2週間に1回ペースで継続する
- 窒素過多による「つるぼけ」を防ぎ、リン酸を含む肥料を選ぶ
- 支柱は苗の植え付けと同時に、根を傷つけない位置に3本立てるのが基本
- 一番果は株の体力を温存するため、5〜7cmの小さいうちに収穫する
- 脇芽は花の上に葉を1〜2枚残してこまめに摘心し、栄養を実に集中させる
- 夏の終わりに株が疲れてきたら、更新剪定で秋ナスに備える
- これらの基本ポイントを丁寧に実践すれば、プランターでも美味しいナスは必ず収穫できる